話題の「ケトン食でがんが消える」は本当か 最新知識を第一人者が解説 | インターネットとパソコンとスマホで格闘ゲームの日々

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おはよう!ドクター #100 ~正しい糖質制限の知識~


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 いま話題の「ケトン食のがん治療効果」について、糖質制限食の第一人者である江部康二・高雄病院理事長が解説します。

 最近、ダイエット本や健康書などで「ケトン体」や「ケトジェニックダイエット」といったタイトルが目立つようになってきた。糖質制限を徹底した「ケトン食」が、ダイエット・健康に顕著な効果があるとするものだ。なかには、このケトン食は「がん」の治療効果もあるとする医師の著書も出されている。
では、この「ケトン食」とはそもそもどういうものなのか。がん治療効果は本当に期待できるのか。『江部康二の糖質制限革命』を上梓した江部康二医師に、最新知識を語ってもらった。


サッカー長友で注目、「ケトン食」とは何か?

最近、話題になっているケトン食について説明しましょう。

 サッカー日本代表の長友佑都選手が注目するようになってから、ケトン食が世の中に広く知られるようになりました。


 そもそもケトン食というのは、小児のてんかんの治療食として始まったものです。その内容は、成分の重さの比率で、脂肪とそのほかの食材を3対1にします。

 これはエネルギーの比率でいうと、脂肪が87%という、極端に脂肪の多い食事となります。糖質制限食の場合、脂質は50~60%ですから、これをさらに徹底した食事といえるでしょう。これを実行すると体内の「ケトン体」が非常に増えます。


 これが最近、注目されるようになった理由の一つは、小児てんかん以外にも効果があるという研究が増えてきたからです。特に、ケトン食のがんへの効果について研究が進みつつあるのです。


 このケトン食を難治性てんかんの治療として実行していたある子供に偶然、腫瘍(しゅよう)が発見されたのですが、ケトン食を継続するうちに腫瘍が小さくなったという事例があり、ケトン食にはがん治療効果があるという仮説が出されました。

現在、医学界では、ケトン体をがん治療に用いる研究に注目が集まっています。

 たとえば、動物のがん細胞を入れたシャーレにケトン体を投与すると、がんが縮むことがわかっています。

 私にも、糖尿病でがんもあるという患者さんに糖質制限食を指導したところ、がんの存在を示すマーカーの値が下がったという経験があります。高雄病院式のスーパー糖質制限食(「糖質制限でも痩せない!」にはこう対処せよ)を実行すると、ケトン体の値が高くなり、がんによい効果があったのではないかと考えています。


 残念ながら今のところ、なぜケトン体にがん抑制効果があるのか、そのメカニズムはわかっていません。

 ただ、インスリンには発がん作用があることが知られており、ケトン食や糖質制限食で血糖を減らしてケトン体を増やせばインスリンをあまり出さずに済むため、抑制効果があるのかもしれないと考えられています。



 また、そもそも、がん細胞はブドウ糖だけをエネルギー源としますから、糖質制限はがんに対する“兵糧攻め”になるとも考えられます。

「ケトン体によるがん治療」の最新研究

がんとインスリンに関連してこんな仮説があります。

 がんの末期ではインスリンが異常に出ている可能性がある。がん細胞そのものにインスリンを出させるメカニズムがあり、自分のエネルギー源である血糖を取り込みやすくさせているのではないか。

 実は、大阪大学の末期がんの患者さんで数例、異常にインスリンが出ているケースが確認されているのです。大阪大学では現在、糖質制限食のがん抑制効果について積極的な研究が行われています。

 このほか2015年の第53回日本癌治療学会学術集会において、肺がんの末期であるⅣ期の患者さん5人にケトン食治療を行ったところ、2人が寛解(症状が落ち着き安定)し、それぞれ32カ月間と20カ月間生存中、1人ががんは残るものの26カ月間生存中、あとの2人はケトン食を継続できずに死亡という、大阪大学大学院医学系研究科漢方医学寄附講座・萩原圭祐准教授らの発表がありました。

肺がんのⅣ期患者の生存中央値が8~10カ月ですから、かなり効果があったわけです。

 海外でも、2015年には権威ある医学雑誌『ネイチャー・メディスン』に「ケトン体が炎症を抑制する」という論文が発表されました。

 また、2011年8月からアイオワ大学とNIH(米国国立衛生研究所)が共同で、肺がんとすい臓がんに対するケトン食の効果を確かめる臨床試験を開始しました。残念ながらこの研究は、症例が集まらなかったのとコンプライアンスが悪かったということで2017年7月に終了となりましたが、このほかにもさまざまな「ケトン体によるがん治療効果」についての研究が進められています。

 現在のところ、ケトン体にはたしてがん治療の効果が本当にあるかどうか、まだ結論は出ていません。しかし、その可能性には大きな期待が寄せられている状況なのです。


もう一つ、ケトン食が注目されている理由は、スポーツへの効果です。

 「ケトン体回路にしたい。ケトン体が燃えやすく、キチンとエネルギー源になりやすい体質になりたい」と、先ほど紹介した長友選手がコメントしたことから、スポーツに関心の高い人たちがケトン食に注目するようになりました。



 けれど、ケトン体を効率よくエネルギー源にできる体質になるのなら、脂肪比率87%のケトン食をとる必要はありません。私の推奨するスーパー糖質制限食で十分です。

 実際、長友選手が実践している食事も、本当の定義どおりのケトン食というレベルではなく、むしろ糖質制限食と呼ぶべき内容です。あくまでも、「ケトン体回路にしたい」という食事のようで、逆からいえば、私が著書などでご紹介している厳しめの糖質制限食(スーパー糖質制限食)を実行していれば「ケトン体回路になれる」ということでもあるわけです。

 それに、実際のケトン食は、実行が難しいものです。脂肪比率が極端に高いため、味があまりよくないからです。

がんの患者さんでもないかぎり、ケトン食をする必要はないでしょう。

 また、気をつけていただきたいのは、「ケトン~」「ケトジェニック~」をうたっている食事法のなかに、ケトン生成レベルまでいっていないものがあることです。ケトン食を一般の方が実行するのは難しいという事情もあるのでしょう。1日の糖質量120~130g程度の緩やかな糖質制限では、ケトン体回路にはなれませんのでご注意ください。


そもそもケトン体とは何か

 ケトン体という言葉は、日常会話で今まで使われることがあまりなかったので、よくわからないという人がほとんどでしょう。

 ケトン体とは、わかりやすく言ってしまえば、脂肪酸の分解物で、人の身体のエネルギー源として毎日使われているものです。食品の脂質や体脂肪が体内で分解されて、ケトン体という小さな粒となり、細胞のエネルギーになるというイメージで理解してくださればいいでしょう。

 甘い物を食べるとエネルギーになるので元気になるというイメージが定着しており、糖質が分解されてブドウ糖になり、人のエネルギー源となることを知っている人は多いと思います。

 しかし、科学的に解明されている人体の仕組みとしては、糖質よりもむしろ脂質のほうが人体を活動させているメインのエネルギー源であり、糖質はあくまでも補助にすぎません。

 人体は糖質ではなく、脂質由来の物質をメインにして生きている。これが、争う余地のない科学的な事実です。

 そして、脂質を分解してできるケトン体という小さな粒は、人の細胞が日常的にエネルギー源として使っている、ごくありふれた物質であり、かつ、非常に大切なものなのです。



ケトン体こそが人のメインエネルギーである

 ところが、いまだ日本においては残念ながら、このケトン体について医者でさえメインのエネルギー源だと知っている人は非常に少なく、単に「糖尿病ケトアシドーシス」という病気の原因物質にすぎないと勘違いしている人も珍しくないのです。

 そのため、きちんと病状も確かめずに、血液中のケトン体の値が少し高くなると、すぐに「危険だ」と思い込む医者もいます。


 しかし、ケトン体は人の身体にごく一般的に存在していて、たとえ濃度が高くなってもインスリン作用がある程度確保されていればアシドーシスなど起こさず、健康には何ら問題がないのです。

 たとえば、最近になって、胎児や新生児の身体のなかでは、ケトン体は非常に高濃度であることが普通だとわかってきました。

 2014年に発表された宗田哲男医師の研究によれば、胎児に栄養を供給している胎盤では、ケトン体の一つである物質(βヒドロキシ酪酸)の濃度を平均すると、現在の成人基準値の20~30倍も高かったのです。

また、新生児の場合でも、成人基準値の3倍というかなりの高い濃度でした。

つまり、赤ちゃんたちは、ケトン体で育っていることがわかったのです。

 宗田先生のこの研究は2016年9月に英文論文として医学雑誌に掲載されましたが、私も共著者の一人です。

 ケトン体は人体のメインのエネルギー源であり、自然で安全な物質であることを、ぜひ、理解していただきたいと思います。


江部 康二 :高雄病院理事長
内科医、漢方医。高雄病院理事長、日本糖質制限医療推進協会理事長、江部診療所所長。1950年生まれ。1974年京都大学医学部卒業。1978年から高雄病院に勤務。漢方療法、絶食療法、食養生、心理療法なども取り入れ、独自の臨床活動を行ってきた。1999年高雄病院に糖質制限食を導入し、2001年から本格的に取り組む。2002年に自らも糖尿病であると気づいて以来、さらに研究に力を注ぎ、「糖質制限食」の体系を確立。自身の糖尿病も克服する。









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